Pがお世話になった人にアップルパイを焼いて届けた。
プロのお菓子屋さんで買った方がPのアップルパイよりも美味しいんだろうけれど、手作り=真心だと信じて、お昼時に間に合うようにお届けした。
夕方、『ありがとう。美味しかったよ。みんなでお母さんの味がするねっ、て喜んで食べました。』というメールが届いていた。
Pはお母さんでもないけれど母親のような笑顔で喜んでいた。
懐かしい味、懐かしい風景、懐かしい人。
思わぬところに『懐かしさ』は潜んでいる。
先日ひょんなきっかけで北海道へ行った。
別に観光や用事があったわけでもなく、ただ単に友だちに『北海道行かん?』って誘われてほいほいついて行った。北海道は生まれて初めて訪れる場所でもあったから一度は行ってみたいものだとおもっていた。特に『観光』という意気込んだ気合いがなかったから一緒に行く気がしたのだとおもう。
飛行機の上からの景色を見たとたんにPと顔を見合わせた。
『似てる!』
私たちが目にした風景はかつて暮らしていたヴァーモントとそっくりだった。
葉っぱも落ちてしまい枝だけになった木々に積もっている雪。なだらかな丘。緩やかにカーブしている川。そしてそれに沿った、そんなに広くもないし狭くもない道路。ところどころに、思い出したようにぽつんぽつんとある建物。申し訳なさそうにでてくる信号機。一面には雪。冬には雪があるのが常識だった生活から一旦離れてしまうと『雪』の存在すら忘れていたのをまた記憶が甦った。看板の文字さえ見なかったらそこはヴァーモントだと思ってしまったかもしれない風景だった。二人ともただだまって雪を眺め、しばらくノスタルジックな世界にのめり込んでいた。
今日めずらしく来客があった。
一人でタクシーでやって来て、丁寧で物腰の柔らかい男性だったので、こちらもあまりぶっきらぼうにほうっておくわけもいかず、作品の説明をしたり窯場を見せてあげたりした。すると最後に『あのぅ、いまさらこんなこと言っていいのかわかりませんが、ボク、花子さんと高校で同じクラスだったんです。』
私は一年しか地元の高校にいなかったので記憶もボロボロで彼の名前すらちゃんと覚えていなかったけれど、彼の遠慮がちで優しそうな目には、ハッとするようなものが記憶に残っていた。
その後、小一時間いろんな話をした。
高校の時の話、大人になってからの話。大人になるまでの話。
高校の時はほとんど口もきいた事がなかった相手だったが話をしたら心があったまった。
なんだかノスタルジックな不思議な時間だった。
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