役に立っていないようで実は結構頼りになる記憶は嗅覚だ。
長いアメリカ生活から唐津の実家に戻ってきて真っ先に気付いたことは家の臭い。
昆布と醤油と酒と木の臭いが混ぜ合わさった甘いような酸っぱいような臭い。
長年記憶の隅っこに潜んでいた嗅覚が一瞬に鮮やかに甦った。
他人の家へ行くとまた違ったその家特有の臭いがある。
白檀の香りに染まった絨毯の臭いは叔母の家の特有の臭い。
一瞬のうちに環境の違いを判断してしまうその記憶の威力に驚かされる。
人にもそれぞれ特有の臭いがある。
子供や赤ちゃんは酸っぱいような、甘いような、子犬みたいな臭いがする。
お日様に照らされた洗濯物のような母親の臭い。
畑の土と発酵したアルコールが混じったような人の臭い。
海とシトラスの香りが混じったような人の臭い。
嗅覚が実は味覚のキーポイントになっていることは簡単に理解できる。
ソムリエも口の中に入れる前に必ず嗅覚を集中して感知する。
日本にはお香の文化がある。
香道ではお香は『嗅ぐ』ではなく『利く』というらしい。
お香は仏教とともに伝来し、かつてお寺は学問の場所でもあった故に神聖なる場所で神聖な行事と共にたきしめられるお香の香りがそれぞれに宗教的、哲学的意味を含んだもので、そのメッセージを『聞く』ことからの由来である、という話を聞いた事がある。
インターネットでのコミュニケーションが日常化した時代、人間が物事を把握する『感覚』が薄れてきているのではと思うこのごろ。嗅覚に限らず、五感を大切にしてものごとを感知できる人間でありたいと思っている。
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