春一番


春はなんてったってフキノトウ。

春一番に彼らは固くてつめたい土の間から芽を出してくる。

冬の間の苦い経験を全身に受けて出て来た薄緑色の柔らかさにはおもわず、おお、ようこそ春!とおもってしまう。

『ふふふ』と心温まる感情からフキノトウを発見するとだんだん『ひひひ』に近い感情に変わってくる。『毒をもって毒を消す』という言葉通り、いつの間にか私もこの苦い味の虜になっていた。きっと自分は毒だらけの身体なのだろう。

フキノトウは希少価値が大きいし、タイミングが少しでも遅いと花開いて美味しさを逃してしまうので気を張っておかなければいけない。うちの近所には秘密のフキノトウスポットが何カ所かある。うちの裏を怪しげな人がうろうろしていると気付かぬうちにキッっと目パンチをいれている自分がいる。(とは言え、厳密にはうちの土地ではないのですが。)自分が楽しみにしていた場所からフキノトウの姿が消えていると、ぬ!やられた!と思うと同時に母の顔がまず浮かぶ。

普段出不精の母もなぜかフキノトウスポットを何カ所も知っている。春になるとけっこう遠いところまで足を運んでいるようだ。そしてそれぞれの場所のタイミングもちゃんと把握しているので手ごわい相手だ。

もちろん親子の間ではお互いの収穫はシェアをする、という暗黙の了解はあるが、フキノトウを摘む、という事自体が一番の楽しみであるのだからやっぱり悔しい。

いつも一番はやく芽を出すスポットは坂を降りた近所の老夫婦の家の土手にある。そしてそこにはわんわん吠える番犬が3匹もいる。老夫婦はとてもいい人たちなのだが、その犬どもからいつも鬼の仇のように吠えられるのでこんちくしょう!とおもってしまう場所だ。

普段遠慮がちなPも先日この場所を訪れたとき、『ここのフキノトウは老夫婦のものだから手をつけるべきではない』と良心がとがめたが、犬たちに吠えられた瞬間に天使の心は吹っ飛び、『ええい、こうなったらとっちゃるもんね!』とどっさり収穫を抱えてきた。

そしてその夜はおろかな犬たちに向かって乾杯するのでした。

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