うちの仕事場は山の中にあり、看板もなにもたてていないので訪れる人は少ないのだが、それでも世の中にはいろんな人がいてこんなところまでわざわざ足を運ばれる物好きもいらっしゃる。展示室の隣にある窯場を垣間みて、『へーっ!かなり大きい窯なんですねー。』と、ひょっと上を見上げてもっとびっくりされる。その天井にはなまめかしく光ったミラーボールが吊るされているからだ。なんだか見てはいけないものをみてしまったかのような表情をされるので、『いえね、たまーにダンスパーティをしてるんですよ。息抜きにね。』と答えるのだがたいてい会話はそこで終わってしまう。
『陶芸家』というとなんだか、時代とは無関係に山奥でひっそりと薪ストーブでも焚きながらちゃんちゃんこを着て三毛猫をそばに置きNHKのラジオ放送でも(落語とか)聞きながらの作陶スタイルを想像しがちなのか、いきなり、きらびやかなディスコボールがでてくると戸惑ってしまうのかもしれない。
私はどちらかというとひとりでひっそりと生活するのが好きな方だが、実を言うとダンスも大好きなんです。学生の頃はよくクラブにいったりしたものだ。クラブというと恋人探しを主な目的にしている人がほとんどなのだが、私はそんなのはからっきし頭になくただ単に踊るのが好きで、相手もいないのに勝手に一人で夜明けまで踊りくるっていた。変な相手がいるとじゃまなのでゲイバーによく行っていた。ゲイの男の子とはうまく波調があった。ちょうど高校の終わりぐらい(だったと思う)にHouse musicを聞いて、なんて楽しい音楽なんだろうと思った。終わりのないエクスタシー!という感じだった。
唐津にMonohanakoを構えて一年目はとてもハードだった。 一年間ぶっ通しで日曜日もなく、 一日15時間以上の労働で私もPも精神的にも身体的にも最後はぐたぐただった。ちょうどその頃、唐津に新しい友達ができた。彼は医者なのだが、趣味でDJをやっているという。自分のことを『オタクDJ』と照れながら言っていたが、いっぱしにも機材もプロ並みのを揃えてあり、音楽の趣味もよさそうだったので、Pと同時に『ダンスパーティをやろうよ!』と言い出した。Pも踊るのが好きでよくアメリカでは踊りにいっていた。『K君と私たちだけでもいいからダンスパーティをしようよ!』
10人集まれば上出来。とおもっていたら想像以上にいつの間にやら人だかりが出来ていた。12月の寒い日だからと思ってせっかく仕事の調節をして前日にタイミングを合わせて窯焚きをして部屋を温かくしたのに、ダンスフロア(窯場)は熱気で湯気が出るほどだった。
その日は朝の5時過ぎまで踊りくるっているクレイジーな人がいた。
『毎年、年の〆にこれをやるのもいいね』と思ったのだが、年の暮れまではだれも待てず『また新年にダンパやろう!』とみんなからのリクエストがでてきた。『だれそれのお別れ会、だれそれの誕生会』を口実に『ダンパ』が繰り返し行われ、とうとう今回で7回目(ということはほとんど毎月やっていることになる)というまで頻度が高くなっている。
しかし、中にはclubmonohanakoの存在しか知らず、ガス窯を指差して『あの、大きなシルバーの箱は何なんですか?ここは一体何をされているのでしょうか?』と聞いてくる人もいたりする。
踊ることって気持ちいい。音楽に合わせて体を動かす開放感はカラオケなんての比ではない。ダンスにあまり自信のない年下の女性が『先輩、私、どうして踊っていいかわかりません。』と言ったのに対し、
『そんなのソウルとフィーリングよ!』と立派に言い放った女性がいる。
『ヴィーナス』と呼ばれているカッコいいお姉さんだ。
毎回ダンパをやっていて実感するのだがストレスのはけ口が必要なのは実は自分だけでなくみんなが必要としていて、これはclubmonohanakoのオーナーとして是非ともやらねばならない責任感がでてきたような気がする。ここにくる友達は医者や営業マン、レストランやお店などの経営者など幅広いキャラクターがあつまるのだが、みなそれぞれにストレスや不安を抱え、発散する場所が必要なのだろう。いい歳してる連中が朝の5時までギンギンに燃えているが、ダンパでリチャージして、翌日元気に仕事に戻っている。ストレスのはけ口もなく酒やギャンブルに溺れたり、暴力をふるったりするよりもよっぽどか健康的だと思う。
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