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引っ越し


メイン州は雨が多い。

これから半年間、この土地で新しい生活を築くことになった。

引っ越しの準備はとりあえず先にパートナーが始めてくれていたが、まだまだ荷解きの段階までにはきておらず、着いた時にはガレージ一にダンボール箱が積み重なっていた。3年前に唐津に行きそびれてアメリカに居残ったものたちが全部ここに来てしまっている。

時差ボケと雨と不安の入り交じった一週間をだらだらと過ごしていった。

日本とアメリカでの半々の生活。

自分が夢見た生活が現実になるととたんに怯んでしまっている。

6ヶ月しかないので早く仕事場作りにとりかからないといけないのに、仕事に取りかかる気持ちにはなかなかなれず、ペンキを塗ったり、家具の配置を考えたり、台所で必要なものなどを買いそろえたり。徐々にこちらモードに自分を切り替えようと、すこしづつ、ダンボールの箱を開けてみる。一昔前の写真、野暮ったい初期の頃の作品、初々しいラブレター、今となってはなんの価値も見いだせないメッキの指輪、ani difrancoのコンサートチケット。こんな自分がいたんだ、と不思議な感覚に捕らわれる。色あせたポラロイド写真のような感覚。恥ずかしいとも、懐かしいとも、そして、羨ましくもさえ感じる。

正直な話、20代ほど嫌な時代はなかった。

自分が見いだせなくて焦っていた。

謙虚な心を持つ余裕などなく、自分ばかりを気にしていた。

実力もないのに、はったりとつっぱりだけで生きていたような気がする。

でも今、そんな自分が懐かしくさえ思う。

昔大切だったものがなぜ大切だったのか、なぜかもう一度昔の自分に会いたくなって、昔聴いていた音楽を聴いてみたり、過去に出会ったアートを壁に飾ってみたり。

メインには海がある。

きりりと引き締まった清潔感のある海の上にはとてつもなく広い空が広がっている。この風景を見るとなんだかほっとする。自分の故郷でもないのに、あるがままの自分を受け止めてくれているような気がする。

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