ジェッシーは30代前半のレズビアン。頭は丸坊主。両腕はタトゥーで覆われていて、コミュニティセンターでヨガを教えている。パートナーのアナも同様に坊主頭、タトゥー、ベジタリアンのヨギー。ここまでなら別に驚くこともない。ああ、いわゆる最近の若い人ね、って印象なのだけど、ひとは見かけじゃ判断できないね、というところが実はこの人たち、800エーカーという莫大な土地に暮らしている。二人ともPh.D(博士号)をもっている高学歴者なのだが、アナの父親から譲り受けた800エーカーの土地で(その殆どが自然保護地区となっている、)これから林業や農業を始めるのだという。アナのフィールドは獣医学なんでこれから動物を飼ったりするのに役に立ちそうな気がするけど、ジェッシーの専門分野は海洋生物学。日本に行ったことがあるよ、と言っていたが、京都や東京ではなく、北海道の沖合で数ヶ月クロマグロの生態を追っていたらしい。このあたりでジェッシーがちょっとフツーじゃないことに気付く。海で勉強したことが、果たして森で活用できるのか?という心配はサラリとも見せず、とにかく前向きな人なのである。
うちの森にblack trumpetが沢山あるんだけど、よかったら今度の金曜日に一緒にキノコ狩に行かない?と誘ってくれた。black trumpetとはその名の通りトランペットのような形をした黒いキノコのことで、形や味は違えど、日本でならばいわゆる、松茸と同じくらいの希少価値がある。オーガニック野菜などを売ってるマーケットでたまに見かけることもあるけど、値段もいいし、よっぽどのことがない限りあまり手にする機会がない。もちろん、自分で森に探しに行けば手に入るわけだが、そう簡単に見つかるわけでもなく、「今日ね、森でblack trumpetを見つけたのよ!」と得意気に言う友達がいても「ほんとぅ?どこで?」と親し気に聞いても、親切に居場所を教えてくれるようなバカはいない。自分たちも一応は(5エーカーの)木に覆われた土地に住んでいるのだけど、一度もこのキノコに出会った試しがない。なので、ジェッシーからキノコ狩りのお誘いを受けた時は、正直、バカなのかこの人は?と耳を疑った。バカなのかお人好しか(あるいは両方?)「出来るだけ大きいカゴを持ってきてね、大きくて丁度いいから。」というアドバイスにも半信半疑だった。
はたまた、800エーカーとは一体どれくらいの広さなのか?とググってみたら、、、なんと979400坪!とはいえ、実際にどれくらいの大きさかどうかは、とうてい自分で納得出来る範囲の大きさではない。とてつもなく広いエリアだとはわかる。かろうじて半島と半島の間に川が流れていたのでそこで踏ん切りを付けました、という感じである。実際、彼女たち自身もどれくらいの広さなのかは感覚的に把握出来ていないらしい。知らない間に自分たちの土地に誰かが家を建ててました、というような事だってあるかもしれないし、自分の土地で迷子になりました、という可能性だってあるとおもう。兎に角、広い土地なのだ。彼女たちの敷地に入って家までたどり着くまでのドライブウエイの長いこと!軽く2kmはある。雪かき、大変だろうなあ、と余計な心配が頭を過る。
彼女たちの家へ辿り着いたとたん、雷がゴロゴロと言い出したのでひとまず家で待機。雷に怯えて小屋に閉じこもっていた鶏たちが外に出て来たのを安全の合図にいよいよ出発。今年は兎に角、雨が多かったせいでやたら蚊が多いので武装も忘れずに。長袖、長ズボン、ゴム長靴、帽子に身を覆い、いざ鎌倉!
雨は蚊を大量に増やしたが、嬉しいことにキノコの繁殖にも影響をもたらしたという。
歩き始めて10分も経たないうちにトランペットスポット発見!というか、ジェッシーに地面を指さされて10秒後にやっと気付いた。枯葉と同じ色で似たような形でみごとにカモフラージュしていたが、あらまあ!あるではありませんか!ひとつに気付くとチラホラと至る所に!ブナ科の木の下に連なって生えるのがトランペットの特徴らしく、目が慣れてくるとトランペットスポットも自分でも見つけれるようになった。というか、ここはキノコの楽園とでもいえるくらい、人工栽培してるかのごとく、見事な量のキノコがあちこちに繁殖していた。まさに、雨よ、ありがとう!である。しばらく蚊の存在も忘れて無我夢中になっていた。範囲的には2kmも歩いてないとおもうエリアだけでも小一時間で大きな籠いっぱいのブラックトランペットを収穫。これは、本当にアンビリーバボーなことである。まさかね、と出掛けはあなどっていたけど、念のためにカゴを二つ持って来ていて正解だった。それでもあまりにもあり過ぎて、最後は大きくて見栄えの良いもの以外は採らなくなるよう傲慢不遜になっていたので、気を改めて、ああ、神様、普段の行いが大して良いわけではないけれど、私たちにこのようなチャンスを与えて下さってありがとう!と天を仰いだ。やはり、持つべきものは友ですな、とじんわりと感じている。
その日は採りたてのトランペットでリゾットをご馳走になった。言うまでもなく今まで食べた中でも最高に美味しいリゾットだった。そして次の日はトランペットのピッツァを懐中に。これもすこぶる美味しかった。朝は卵に。こんな贅沢があって良いのだろうか?生きててほんとうに良かった。フレッシュのうちに食べきれんばかりの黒ラッパ、冷凍にしたり、乾燥させたり、次はどんな料理にしようかなと、腕がなるなる法隆寺!
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