『らしくない』物を買ってしまった。
メルセデスベンツである。
といっても、1983年のディーゼルの中古で、すごく安くで手に入った。
自分は車とかには興味がない人間だとおもっていたが、実はミーハーなものを好むタイプだったのだと、新たな自己発見だった。
中年期障害なのかもしれない。
アメリカはなんといっても車社会である。
自分は家で仕事をしているので車に乗る必要性はあまりないのだが、それでもたまには気晴らしに外に出たいと思うし、牛乳を買いにいくにも車がなければどこにも行けない。
この夏はPのお父さんの車を借りていたが、ド派手な緑色(Nissanだが、こんな色は日本にはないと思う、)しかもエンジンをスタートする時にキキキーーーキュルキュルキューっとけたたましい音をたてるやんちゃな車で、目立ちたくもないのにものすごく目立ってしまう、トホホな生活を送っていた。
そんなある日、Pがベンツの中古を道ばたで見つけた。
最近のベンツはなんだかデザインも好ましくないが(もちろん新型のベンツを買うお金も持ち合わせていないのだけど)昔のベンツはシンプルでとても好感が持てる、以前からなんとなく気になっていた車だ。特に昔のベンツはお尻が可愛い。自分は車に関しては『顔』よりも『お尻』だとおもっている。
試し乗りにさっそく車屋さんとアポを取った。
Pが目にしたチョコレート色の1973年のベンツはもう既に売り切れていて(ミュージアムに寄付されたらしい)それとは別の1983年の240-Dがいた。色は深緑色。見栄えもよろしい。ディーゼルカー特有の油の臭いもしない。たたずまいも立派で素敵なクラシックカーではないか。ドアの音も私の軽自動車のような『かちゃっ』ではなく、閉めると『ガシャッ』としっかり頼もしい重さがある。シートも革張りでふんわりとしている。車内も清潔で過去の持ち主も丁寧に扱っていたらしく、車とともに持ち主の育ちの良さが感じられるようである。
しかし、見かけに騙されてはならぬ。美女に限って下着や心は汚い場合があるではないか、と心を鬼にして厳しい目でチェックする。とは言え、そもそも車のことはチンプンカンプンなのでどこをチェックしたらいいのかわからない。『あ、すごい、サンルーフがついてるよ!』とか、『お、ipod も使える、ラッキー!でもやっぱ古い車にはカップホルダーがついてないね』とかどうでもいいようなことばかりに目がいく。それで専門家の意見をきいてみようと、隣町のメカニックに点検してもらうことにした。
いつもアメリカで感心するのは見るからにヤバそうな古い車が何十年も乗り続けられている事だ。ものを大事にするのは良い事だとおもうが、安全性に関しては如何なものかと思う。しかも、メイン州では25年以上経った車は(アンティークカーとして申請すれば)車検も不要らしい。これは90歳のおばあちゃんを健康診断につれて行くようなものだろう。(どこか問題があるに決まっているので)無理な運動は避け、うちで養生するように。というお互いの暗黙の了解だとおもう。
車を見る以前に電話口で『なんで古びたベンツなんか欲しがるの?』と呆れられた。ドイツ人のメカニックだった。ドイツ人にとってはエアーバッグもついていない古いベンツなんて腐った松茸のようなものらしい。なんでトヨタとかホンダにしないの?日本車の方がコストパフォーマンスもいいし、信頼性もあるよ。と、実用性を重視するドイツ人らしい意見をさされた。メインは潮風もあるし、それに加え、冬は凍結した道路に塩を散布される。だから本体の『錆び』が一番の問題になる。勿論、この車にも錆びがあった。なんといっても1983年モノだ。無理もない。でも見る限り車は丁寧に扱われていて、エンジンにも問題はなく、車体の錆びさえ修理すればまだまだ乗れるでしょう、ということだった。でも最後に『ボクだったらトヨタかホンダにするね。』といわれた。
日本人の私は結局、トヨタかホンダではなくこのベンツに決めてしまった。
腐っても鯛は鯛。
早速、この高貴なおばさま(?)と日曜日にデートした。
坂道はさすがに厳しかったけれど、シャンパンでピクニックを楽しんだ。(おもいっきり飲酒運転!?)
その日はちょうど花火大会だった。
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