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春の夜中のめっけもん

夜中に見た。彼らの姿を。その夜は裏道をとろとろと運転しながら月光に薄明るく照らされている小道を辿っていた。少し酔っているとはいえ(だから裏道を通っている)カーブを曲がる直前だったとはいえ、瞬時に私はその姿を見逃さなかった。『や、や、奴らにちがいない!』翌日、さっそくその場所へ逆戻り。散歩にはもってこいの天気なのだが歩いてなんてまどろっこしい。車を飛ばしていち早く確かめたい。スーパーのビニール袋を引っ掴んで。『頭の開いたのはダメよ。かたーく締まっているのを穫って来なさいよ。』母の声が釘を刺すように私の背を追いかける。わかってますってば!転げるようにして土手にたどり着くと、おー、あるわあるわ。やっぱりね!かわいいつくしんぼが勢揃い。いつの間にあんたたち!もうすでに頭をひらいたのまでがいる。あやー、一足遅かった!いや、でもまだあるまだある。ちゃあんと頭のかたいのも残っている。ひっひっひ。狂ったように10分も摘めばビニール袋が一杯になるくらいの量が穫れた。もうこれくらいで充分よ、と思いながらもまた次のが見えてしまうとやめられないとまらない。カッパエビセンシンドロームに陥っている。

家に戻るとさっそくテーブルの上に新聞紙を広げて今日の収穫をあらためて確認する。さて、これからが一仕事。つくしは穫ったはいいがハカマ取りがたいへんである。背が小さいのにかぎってハカマだけはたくさん身に纏っていたりする。うちの家系につくしのハカマ取りの名人がいる。『ちーおばちゃん』といってひとが一つ剥き終える間に3つ、4つ、ぴゅるぴゅるぴゅるーっとマシーンのように剥ぎ取ってしまうらしい。しかもおしゃべりしながら。私はちーおばちゃんが実際に剥いている姿を目にした事はないのだが、つくしのハカマを剥く時はどうしても彼女を意識してしまう。自分でも『どう?速いでしょう?』と誇らしげに披露しても『いや、ちーおばちゃんはそんなもんじゃない。』と却下される。ちーおばちゃんのは人間ワザではないらしい。


一旦、つくしのハカマを剥ぎ取ってしまうと頭でっかちでひょろひょろーっとしていて、なんだか、はだかになった中学生、とでもいう様な頼りなさというか、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気に迫らせるのは私だけだろうか?

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