四十而不惑


アイリッシュ民謡を聞く度に『前世はアイルランド人か』と懐かしい気持ちになるけれど、今回ばかりは『前世はきっとヤギだったにちがいない』と思った。

40歳はメイン州のMount Blue State Parkで迎えた。

うちの古い車でも1時間半のドライブでたどり着けるほどの距離だが、そこへ行けばいつもとは違う空気が味わえる。

夏のキャンプサイトは普段より賑わっているけれど、松の葉の高貴な香りに満ちている。

キャンプ場からちょっと歩けば湖があり、ゆっくりとカヌーを楽しむひとたちもいれば子供が水浴びにはしゃいでいる。

けれども私が今回ここへ来たかったのはこの湖ではない。

まわりにはいくつもの山があり、至る所にハイキングコースがある。

初日は中級コースで嗜んでみる。ガイドブックには往復3時間と書いてある。

道幅がだんだん狭くなり、徐々に傾斜が傾いてくる。それとともにだんだん口数が減ってくる。聞こえるのは自分たちの吐息と、たまに森の中を駆け巡る小動物たちの音。ある程度の時間が過ぎると身体がハイになってくる。頭の中には余計な思考は削ぎ落され、ただただ、次に右足をどこにかけるか、その次に左足の進め方を考えるのみ。

頂上に近くなると森の間から空の輪郭がちょっとずつ見えてくる。

クライマックスの瞬間!

ああ!360度に広がる景色。雲が手で届きそうな距離にある。

腰に手をあて、お決まりのポーズで山々を眺める。

明日はあの山に登ろう。

前日から目星をつけていた山は、Tumble Down Mountain。その名の通り、転げ落ちそうなくらい急な坂が待っていた。道というより、岩、岩、岩、岩、岩。坂が急なので四つ足になって這い上がる、という感じ。途中、犬が断念して坂を降りてきていた。四つ足の動物にとっては険しい坂は降りるほうが厄介だ。本当に一歩間違えれば転げ落ちてしまいそうな坂なのだ。ふとヤギのことを考える。ヤギは高いところが好きで、家畜にヤギを飼っても車の上に登ったり、やたら高いところへ登りたがるらしい。下へ降りるときの危険性はヤギの頭にはない。

小さい頃、窓から見える三角の山を指差して、あの山に登りたい。と親にせがんだことがある。

三角形の山で、その山のとっさきに片足だけで立っている自分を想像していた。

人間もなぜ高いところへ登りたがるのだろう。

人間はバベルの塔を建てて神の怒りを買ってしまい、その罪として『言葉』というお互いが困惑してしまうものを与えられてしまったのに。

確かに、頂上へ登ると神に近づいた気分になる。

ヤギたちの目にはこの景色はどう映っているのだろう?

そう思いながら頂上で一番高い岩に登ってみた。

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