11月5日。唐津の町はおくんちが終わり、燃え尽きたようにひっそりぐったりしている。女性にとってはありがたい日なのであるが、やっぱりどこか寂しい気がする。
ノスタルジックに漂うからなのか、唐津っていい町だとおもえるようになった。
おくんちしか頭にない唐津の者を一見冷めた目で見ていた時もあったのだが、一年のうちのたった三日間にしろ、こんなにも唐津の町を誇りにおもっている(特に若者)をみるといい事なんだと感じるようになった。
日本全国いろんな祭りがあるが、最近の祭りはほとんどアルバイトを雇っている祭りが多い。だから当然盛り上がりに欠ける。(はずだ)
唐津の場合、曳き子さんを集めるどころか、人数を制限する方が難しく、町内によってそのルールは多少異なるのだが、町内の出身である者、もしくは町内のものと深い信頼関係を持っている者だけにしか許可がおりない。普段親や学校の先生の言う事も聞かないワルぶってる若者も曳山取締役が一言『茶髪は禁止』という命令を下すと即、黒く髪を染めて申請書を出している。曳山の影響力はそれくらい偉大なのだ。私の甥っ子も三人ともヤマキチなのだが、今年そのうちの一人が許可書を申請するのを怠けており、山を曳くことが出来ず16歳にもなるのに泣きじゃくって哀れんでいた。でもそうやって痛い思いを体験して『社会のルール』というものを学習していくのだ。
曳山は14台あり、それぞれに固い地味な感じの町と、悪ぶっている若い連中が目立つ町とある。ヤンキーっぽい者もたくさんいるが、女の子の目を意識しまくりここぞとばかり『エンヤー!』と高々と声を張り上げている。山曳きの格好は町内によってそれぞれなのだが、基本は江戸腹、手甲(テコ)、肉襦袢の上にハッピを羽織るスタイルだ。普段、ずんだれパンツにバスケットシューズ姿の若者までもこの日になるとパッチ(ぱちっと足首まである長いパンツ)を履いて黒足袋に雪駄の方がカッコいいと思っている。
不思議にも普段全然めだたなーい男がこのハッピ姿になってしまうとどんな俳優よりもかっこ良く見えてしまう。彼らの足取りも自信に満ちあふれており、『皆の衆!見よ!』と言わんばかりに堂々と胸を張って歩いている。
まるで『虎の衣をかりたネズミ』であるが、年に一度のチャンスなのだ。いい思いをするもの良かろうと皆温かく彼らを見守っている。
おくんちの囃子はソウルフルでとても心に響く。太鼓のリズムがタン、タン、タン、タン!とクライマックスに追い詰めて、しかも笛の音がなんともメランコリックで胸が揺るぐ。4日(最終日)には曳山を神社(展示場)に戻すのだが、曳綱を持っている大の男が大泣きに泣いている。特に体格も良く、ワルっぽい男こそ泣いているのが多い。それを見るとなんだかもらい泣きしてしまう。普段つっぱっている者でも泣かせてしまうおくんち。都会ではなかなか見れない光景だろう。
唐津のものは純情で、お調子者で、おおらかな人が多い。
この町で育って本当によかったと思う。
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