唐津には11月の頭に『おくんち』という3日間にわたるお祭りがある。
『唐津っ子』はおくんちが始まる1か月前くらいからそわそわし、仕事もおぼつかなくなる。遠くに住んでいる唐津出身者の中にも盆や正月は帰って来なくてもおくんちの為にはわざわざ仕事までも休んで帰ってくる『ヤマキチ』(曳山キチガイ)がいる。
私はこの頃になると女である事がいまいましく感じられる。
このお祭りは男の祭りであるからだ。
立て前上では女性のシンボルである『豊作の神』を讃え、イキのいい男どもが山車を曳き出す神聖なるお祭りであり、すなわち女が一緒になって綱を持つことは『けがらわしい』行動とみなされるのであるが、こんな調子のいい決め事を作ったのは男どもであったことは疑いの余地が無い。
女どもはこの身勝手な男どもの為に前々から料理の準備をし、祭りが始まると夜も寝ずに酔いどれの世話と皿洗いに浸されるのだ。
唐津の女性にとって一年のうちで一番幸せな日は11月5日と答える人が大半を占めるだろう。すなわち、くんちが終わった日なのだ。それくらいくんちは女にとってめーわくな日なのである。
小さい頃、(世間にまだ女として認められていなかった頃)は私も男の子と交じって山を曳くことが出来た。小さい頃から育った環境だったので男であれば当然『ヤマキチ』になっていた事は間違いないのだが、もうこの歳になってはいくらなんでも曳くことは許されるはずもなく、だから今はどことなく『くんちなんて、けっ!』といじけた気分になってしまう。
ここで問題なのが普段が中性っぽい立場でいるからくんちの時の『男』の領域と『女』の領域の区別がはっきりしているシチュエーションになってしまうと居場所がなくてフクザツな心境になってしまう。
男の領域である曳山には近づけないし、かといっておとなしく料理を作ったり皿洗いをするのもしゃくにさわる。料理も皿洗いも別に嫌いではないのだが、この日ばかりは女であるが為に『やらさられている』という目に見えぬ抑制に反発したくなる。
しかし基本的に『くんち』は好きなので遠くから来たお客さんを接待する、という事を口実に唐津の町を巡って一緒に飲んだくれる、という行程になるのが最近のおくんちパターンである。
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