自分とは一生無関係だろうという買い物をしてしまった。
私は今、メイン州にいる。唐津から36時間もかけて訪れた、アメリカの果の果て。
暫く何もする事がない事を求めてここへ来る事を選んだのは事実だが、人間、何もする事がないとこうも変わるものなのかと自分でも驚いている。
それとも時差ボケのせいなのか?
本当は薄手のセーターを求めていたはずだった。猛暑を浴びていた唐津で身支度をした時はセーターの事なんて考える隙もなかった。しかし、ここメイン州ではTシャツを何枚重ねても寒さはしのげない。
さて、私が手に入れたものは『ハイヒール』である。
はて、どこでどう思考回路が曲がったのか?
それはかかとが10cmにもおよぶツワモノであった。
とても初心者が手にするヒールではないような気がしたが、私の中に36年間も隠れていた小悪魔が『ちょっとトライしてみたら?』と囁いた。
小豆色に光るエナメルが私のココロをくすぐった。
小さい頃は男の子になりたかった。
女の子たちとおままごとやお人形遊びなんてつまらないと思っていたので遊び相手はいつも男の子を選んでいた。相撲やかけっこでも皆の衆をこてんぱんにやっつけてしまう親も呆れるおてんば娘だった。女の子の格好なんてもってのほか。いとこの結婚式で代表で花束贈呈をするためフリフリのレースのドレスを危うく着せられるのを泣きわめいて拒絶した。お風呂の時は下部をしげしげと見つめ『生えてこない。』と母に苦情を訴えていたらしい。
もちろんもう男の子になりたいなんて思ってはいないが、大きくなった今でも昔とさほど変わっていないような気がする。スカートは2、3着持ってはいるが、母からもあんたは似合わないと太鼓判を押される程なので、勿論自分でも『フェミニンな格好』は自分らしくないと百も承知である。
その私がいきなりハイヒールとでるなんて誰が予想しただろう!
その10cmにおそるおそる足を忍ばせてみた。
なんという居心地の悪さ!
歩こうとするが、アヒル歩きになってしまう。
ヨノナカの女の人たちはこんなものに足を締め付けられてすました顔で歩いているのか!女の人たちの血に染まるような努力を垣間みたような気がした。
もちろん気まぐれではあるが自分もこの馬鹿らしいとも思える挑戦に挑んでみようと思って手にしたハイヒールである。
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