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スローライフ


ここアメリカ、メインではいやがおうにもスローライフを強いられている。

仕事をするにも暖房設備がないとそこから準備しないとならない。4月とはいえ、土も凍ってしまうほど仕事場は寒い。

土や釉原料をオーダーするにもすぐに手配してくれないのがアメリカ。

仕事が一向に進まない。

外にでかけるにしてもこの寒い気温の中でディーゼルカーのエンジンを起動させるのも一苦労だ。30分くらいかかることもある。

出かけるといってもチョイスが少ない。夏はいつも人だかりがしていた地元のファーマーズマーケットもシーズンオフでクローズ。

かろうじて町の小さいスーパーと郵便局だけは開いているが、ほとんどのお店に明かりがついていない。メイン州のビジネスオーナーは熊よりも冬眠期間が長い。

日本でめまぐるしい生活に追われていたのでここに来てほっとするのかと思いきや、こんなにまでスローライフだと逆に手持ち無沙汰でイライラしてしまう自分が悲しい。いつも隠居生活にあこがれていて、ほんとは人付き合いも最低限にとどめて、山の中でひっそり淡々と暮らすのが好きな自分だとおもっていたけれど、自分はこの歳で吉田兼好のようになるのには50年早いことに気付いている。

雪かきでもやる事があるとまだいい方だ。普段やらないジョギングを思い立ってやってみる。ぐるっと一周すれば6マイルもあるけれど、日中も人気のない道を廻ってみるとジャーマンシェパードをつれた老人に出会い、なんだかほっとする。予想以上に人恋しくなっている。

日曜日に隣町のコープに買い物に行くことと、コーヒーを飲みながらカフェに行き交う人々を眺めるのが唯一の楽しみ、とはすごく次元の低い刺激ではあるけれど、いままでにない程時間をかけてゆっくりとコーヒーをすすり、コープの商品ひとつひとつを丁寧に吟味している。まるで怪しいマーケットリサーチャーのようでちょっぴり罪悪感、だけどお店の人は別に大してなにも感じていないようで他の店員と世間話をしている。試しにヤギのヨーグルトを買ってみる。

カリフォルニアでスローカフェというのがあるらしいことをラジオで知った。

スローフードのメニューだけではなく、インターネットも電話線でつながっている、という昔のネット環境をわざわざ取り入れているらしい。

いくところまで行き着いた今、こんなかたちで『スロー』を重んじるのはアメリカらしい社会の変化かもしれない。

今や世界はどうなっていくのだろうか。わがままな人間がスローなライフスタイルにどこまで満足できるかは疑問だが、少しでも人間が機械化しなくなるのはやっぱり悪くないことだと思う。

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