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クレソン大国


虫の知らせ、という表現はこういうのにはつかわないのかもしれないが、今日、なんとなく、『そういえばクレソンを食べたいな』と思っていた。日曜日でもあるし、仕事を早めに終わらせ時期も終わろうとしているタケノコを掘りにいくのが午後の主な目的だったのだが、その道、ちらりと川辺を覗いてみると、そこは緑の絨毯、とでもいうようにクレソンが川一面に生い茂っていた。ありがたいことにここいらへんでクレソンの味を占めているものは(私の家族以外に)だれもいない。

かつて青山の紀伊国屋で『一束300円』というクレソンを目にしたときはぶったまげたが、ここ見借の地ではクレソン=単なる雑草、なのである。近所の農家のおじさんが、『あんたたち、こんな草なんか摘んでどうするの?』とでもいうように怪訝そうに私たちを横目で眺めている。ここはクレソン大国。しかも独り占めできるのである!王者になった気分で、クレソンを摘む姿勢にもどことなく余裕が漂う。クレソンが育つのは水がきれいな証拠。この冒されていない水源にほっと安心する。ぐわし、ぐわし、と緑の束をたぐり寄せ、すぐバケツが一杯になる。いつもは葉っぱの柔らかいところだけをもぎとりクレソンサラダにするのだが、茎が太いものもあり、ポキっと音を放つ感じがどことなく『空芯菜』を連想させる。そうだ、これを紹興酒と塩で炒めても美味しいはずだ。と今晩のおかずが即、決まる。

素材を手にしたときに決まる料理は間違いなく美味しい。

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