マッチで火を付ける瞬間が好きだ。
マッチ箱からオレンジ頭を一本取り出して、しゅっ、とマッチをこすりつける。このときの触感も音も臭いも全て私のこころをくすぐる。
音に色がついたような瞬間。
マッチ売りの少女は餓死してしまったけれど、マッチを剃って幸福の幻に火を灯し、お金では買えない喜びを感じ得た。
マッチには余韻が残る。
火が消えても白く残った煙は目に見えぬ存在をあらわにする。
ろうそくの光も好きだ。
蛍光灯のような明るすぎる照明だととたんにしらけてしまうが、ろうそくか、電気の照明でも明かりをグンと低くすれば夜のムードを楽しむことができる。
ろうそくは時間と空気を一体化し、空気をやんわりとつつんでくれる。
凛とそびえ立ち、時にやわらかく揺らめく炎は身も心も落ち着かせる不思議な力。
おもわず時を忘れて見入ってしまう。
会話も音楽も要らないやさしい沈黙。
夜は暗いのだ。
当たり前の事をヴァーモントでヒッピーなライフスタイルを送っている知り合いに気付かせてもらった。彼らの家には冷蔵庫もラジオもなく、森で収集したキノコをオリーブオイルでソテーにしてくれたのが、この上なく美味しかった。彼らの家には時計なんてものはなく、太陽の動きと腹時計で時間が理解されていた。音楽はレコードやCDで聴くものではなく、自分で演奏し、歌うものだった。
自分は彼らのような生活を真似するのは無理だとおもうが、せめてマッチでろうそくに火を灯すことでバランスをとっているような気がする。
ヴァーモントで飾ったクリスマスツリー。
ろうそくを灯す時に願い事をして一番最後まで残ったろうそくの願い事が叶うといわれる。
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