かしわめし



若い頃は焼き鳥、唐揚げ、ピザ、ギューザ、とにかく脂っこくてボリュームのあるものにはギョロリと目を輝かせていたものだが、三十も半ばを越えるとそういうものを食べたいとあまり思わなくなって来た。

『あんたは歳とるのが早いねぇ。』

七十を越える母はいまだにコロッケやらグラタンやらを高校生のような目つきで美味しそうにたいらげている。

一体どこからそんな食欲が出てくるのか、たくましい胃袋だとつくづく感じる。

一方、父は昔から魚と野菜しか好まず、肉や西洋料理がダメな人でハンバーグやミートボールスパゲッティが食べたい小さい頃は父中心の食事が嫌でいやでたまらなかった。

父が出張で留守の日はお弟子さんと『やった〜ぁ!』と手をたたいて喜びあった。まだ育ち盛りの若いお弟子さんたちもやっぱり肉系のものが食べたかったのだ。

それが今。私も(サラミやチーズなどの酒の肴を除いては)もう肉はいい。西洋料理はノーサンキュー、と胃袋が宣言している。食事も野菜を多く好む様になり、後はごはんとお漬け物があれば良し。もし子供と一緒に生活していたならばきっと嫌われていたに違いない人間になってしまったのである。

私が母の家に食事に呼ばれると『どう?ハムがあるよ。ソーセージがあるよ。』が決まり文句だったのが、今や私が旬の魚の刺身やおひたしなどに反応を示すような中年女に変身したが故に、最近はそっち系のものに母は腕をふるうようになってきた。

もし、死ぬ前に食べたいものは何かと聞かれれば迷わずに『かしわめし』と応えるであろう。西日本では鶏肉のことを『かしわ』と呼ぶ。なので鳥めしではなく『かしわめし』でないとピンとこない。九州の味付けは大体が味濃い。しかし母のかしわめしは薄味でしかもいろんな具から出ただしがしっかり品よくでていて美味しい。これに奈良漬けと卵のお吸い物がついてくるのが私の大好物のランチメニューだ。

私が仕事で忙しくしていると『どう?かしわめし作ったんだけど食べる?』と隣の家からそれとなく救助電話がかかってくる。

本来ならば、私が母にごはんを作ってあげてもいい年齢的な立場なのだが、母にごはんを作らせておいて遠慮どころか、はずかしげもなくにんまりしながら三杯もおかわりをして母にあきれられる始末である。

なんといってもかしわめしの一番おいしいところは『お焦げ』である。かしわめしのお焦げとはトーストのバターみたいな関係で、なくてはならぬ仲なのだ。うちは圧力鍋でごはんを炊いているので比較的お焦げが出来やすい。だけどせっかくできたおこげもせっかちに蓋をあけるとお焦げが鍋の底にくっついたままはがれない。これはまことにむなしい。


最近Pが母に習ってかしわめしを上手につくるようになってきた。

これに手作りの大根で漬け物まで作ってしまうので本格的である。

Pは化学調味料とかを使ったり、料理や味に対するへんな癖がない分、素直に母の言う通りに日本料理を覚えている。

お味噌汁もちゃんとエソからだしをとって、上品な味を作り出せている。

最近は私よりもPのほうが頻繁にごはんを作っているので彼女の方が日本料理は腕をあげていると思う。

フキノトウの煮浸しが食卓に出た時は『負けた』と思った。

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