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うつわを育てる

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白い磁器のうつわがもてはやされていた時代、それを真似ようと、陶土の上に白化粧を掛けて焼いたやきものが作られるようになりました。『粉引』と書いて『こひき』というやつです。けど、所詮、化粧は化粧。ごまかそうとしても、だんだん使っているうちに素の色が表に出て来ます。油成分や醤油などがしみ込んで、そのうちシミなどが出てくるのも、人間の肌と同じ。

けれど、日本文化には、丁寧に良く使い込んだものは美しい。と思う美意識もあります。

昔の家の黒光りした廊下。あるいは、丁寧に使いこんだ真鍮の茶筒。長い年月を経て、暮らしと共に変化してきた生活道具には新品にはない、貫禄があります。

お酒がしみ込んで『雨漏り』が美しい粉引の徳利やぐい呑などをなめるような目つきで眺めては、独りで『むっしっしっ♡』とにんまりしている骨董好きオヤジも日本には少なくありません。

このテの感覚はもちろん私にもあります。唐津の友人が作った粉引のぐい呑をたまに(というかしょっちゅう)使っているのですが、粉引はやはりお酒好きのようです。初めはなんの変哲もない、ただの白いのっぺりしたぐい呑でしたが、最近しっとりしてきた姿に目を奪われました。そして『お前も立派に育ったものよのう』と眺める目つきはレッキとしたオヤジなのでした。

骨董屋へ行けば、ずっと前に誰かが育ててくれた立派なアンティークは探せるでしょう。けど、やはりうつわは自分の手で育てたいよね、と思う自分は少しは母性があるからなのでしょうか?

それにしても日本酒って美味しいですねえ。

注:『うつわを育てる』という言葉をヤキモノ好きは良く使います。シミを汚いと思わないで、景色として見なすのです。ただ、これもただ単にシミになったら良い、というわけではなく、丁寧に扱いながら時間をかけてしっとり育てるのが乙なのです。

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